EVENT
6月8日(土)に開催しました、【THE6 3rd Anniversary クロストーク 3×2=6】のイベントレポートをお届けします。
THE6のコンセプトでもある1st place(住む)、2nd place(働く)、3rd place(もう一つの居場所)という3つのカテゴリを、開館から3年を迎えた今再考すべく、仙台・宮城・東北の未来とTHE6が果たすべき役割の輪郭を描きました。
THE6と関わりのある3名のホストにそれぞれ「今一番話を聞きたいゲスト」を挙げてもらいました。
最後のカテゴリは、1st place(住む)です。テーマは「その土地に住まう」です。
設計工房を営む由利収さんが今一番話を聞きたい方は、りんご園&家具工房&小さなカフェ「ミズサキノート」の及川健児さん・由希子さんです。『働く』と『住まう』が分かれていない暮らしをしているお二人に、日常で見失っているかもしれない何かを見つけるべく、お話を伺いました。
(写真左)ホストの由利収さん。興味深いお話をたくさん引き出してくれました
(写真中央・右)ゲストの及川健児さん・由希子さん
「かっこいい話ができたらよかったのですが…」と健児さん。岩手県奥州市江刺区のご実家のりんご農園を継ぎ、家具工房とカフェを営むことになった経緯をお話してくれました。
元々グラフィックデザイナーの仕事をしていたお二人。結婚後、昔から工作が好きだった健児さんは「家具が作りたい」と思うようになりました。家具職人の元での修行を経て、仕事を辞め、長野県に家具づくりの職業訓練を受けに行きます。訓練が終了し、仙台で家具工房を開いた頃、実家から「りんご農園を継いでくれないか」との連絡が入ります。迷いながらも実家に戻り、りんご農園を継ぐことにしました。そこで悲劇が待ち受けていました。なんと、戻って2か月後(初夏)にひょうが降り、りんごが全滅してしまったのです。
(写真)熱心にお話を聞く参加者のみなさん
被害に遭ったりんごは穴だらけ。そこでお二人は、りんごの傷ついていない部分でジュースを作ることにしました。出来上がったジュースは6000本。由希子さんが急遽作成したホームページを中心に販売したところ、完売しました。そこで気づいたのが、江刺りんごは高級品であり、とても美味しいということ。江刺りんごを知っている方が多く、「りんごの販売はしていないんですか?」という声がたくさん寄せられました。そこで、収穫ができるようになってからは、ホームページでりんごの販売も行うようになりました。
(写真)ジュースもたくさんお持ちいただきました。かわいいパッケージデザインもお手製です。
ミズサキノートは2010年にオープンしました。健児さんの作る家具を体験できるスペースとしてはじめましたが、りんごを食べたいというお客さんが多かったことから、由希子さんがお菓子づくりを独学で勉強し、ケーキやジュースなど、りんごを楽しめるカフェになっていきました。近くにゆっくり時間を過ごせる場所が少ないことから、息抜きに来るご近所さんも多く、「この場所に救われました」とお礼を言われることもあるそうです。りんごモチーフの作品の販売などを行う「りんごのおまつり」も主催し、今年で10回目を迎えます。
また、「D&DESIGN Travel」という旅雑誌に掲載され、渋谷ヒカリエで展示販売やイベントも開催しました。遠くに住む人にもファンが多く、10年近く続けた取り組みがやっと認められつつあります。
及川さんの子どもたちは、働く両親を見ながら育ちました。教えた訳ではないけれど、娘さんは接客がとても上手で、息子さんはクレープを1枚も無駄にせず焼くことができるそうです。
「実家の後を継ぐ」ことをきっかけに始まったミズサキノート。実家に戻ることをとても悩んだそうですが、戻ってみて江刺りんごの魅力を再発見したこと、「何もないと思っている場所にも、何かはある」と気付いたというお話が印象的でした。この身近な魅力への気付きが『働く』と『住まう』をつなぐ、大きな原動力のように感じました。
「江刺りんごの魅力を伝えたい」というお二人の想いと工夫が詰まったミズサキノートには、子どもたちもたくさん訪れるそうです。忙しいながらも楽しそうに働く姿を見ながら育った子どもたちや若い人たちは、「自分もこの土地で楽しく働いていけるんだ」と、希望を持って暮らせるのではないかと感じました。
健児さん・由希子さん、由利さん、そしてお越しいただいたみなさん、ありがとうございました。